ここ数か月、私は2種類のサーチを同時に手がけています。顧客基盤を持つ既存のソフトウェア企業がAI製品への転換を進めるケースと、AI企業が日本で初めてチームを立ち上げるケースです。同じ優秀なカントリーマネジャーに両方から声がかかり、どちらを選ぶべきか、私の見方を聞かれることがよくあります。
私の答えは、どちらも間違いではない、ということです。決めるのはご自身の状況です。ただし、両方の話を聞き、自分の強みと価値は何か、どちらの機会が本当に自分に合うのかを理解しておくことが大切です。
ドットコム時代の教訓
私が東京で採用の仕事を始めた2003年、日本はまだドットコム・バブル崩壊の痛手から回復していませんでした。市場が立ち直るまでには何年もかかりました。当時、CRMとSCM(サプライチェーン管理)のソフトウェアは、専門にするのによい分野に見えました。日本で事業をしていたグローバルのCRMベンダーは12社ほどありました。しかし私が採用を決めたのは、Oracleに買収される直前のSiebel Systemsだけでした。ほかの多くの会社は、すでに衰退に向かっていました。
今も同じような流れが見えます。ただし規模ははるかに大きいです。勢いのあるAIスタートアップは数多くあります。既存のベンダーが十分に速くAI戦略を転換できれば、バブルがはじけたとき、多くのスタートアップは生き残れないでしょう。
10月末の株安
10月末、テック株が大きく下げました。10月29日、Alphabetの株価は決算発表のあと12%下落し、1日の下げとしては過去最大となりました。翌30日にはナスダック総合指数が2.9%下落し、10月は2025年3月以来、最も下げた月になりました。
ただ、私はこれを冷静に見ています。私が確認した銘柄の多くは、その前の数週間で大きく値上がりしていました。ナスダックは9月下旬と10月上旬に最高値を更新しており、下落後も年初から約10%高い水準です。今回の下げの多くは、急な上昇のあとに値が戻った動きだと私は見ています。
変わったのは、AIへの投資に対する市場の見方です。Alphabet、Amazon、Microsoft、Metaの4社は、今年だけで合わせて7,400億米ドルを超える設備投資を計画しており、その多くがAI向けです。直近の決算では、Alphabet、Amazon、Metaのフリーキャッシュフローがマイナスになりました。事業で得た現金よりも多くを使ったということです。需要は今も強く、AWSの売上は前年同期比39%伸びています。投資家が知りたいのは、その巨額の投資がいつ回収できるのかという点です。大手テック企業以外では、成果はまだはっきり見えていません。投資会社Apolloのチーフエコノミスト、トーステン・スロック氏は10月24日、AIはテック企業以外の米国企業に「財務的な見返りをまったくもたらしていない」と書いています。
私は、これでバブルがはじけたとは考えていません。ただ、市場の不安の表れかもしれません。この不安が続けば、最初に影響を受けるのは若い企業の資金調達だと思います。
立ち上げで最も大きいのは資金
ゼロから日本事業を立ち上げるための手段はよく知られています。最初のチームを採用し、最初のリファレンス顧客を獲得し、製品を日本向けに整えることです。成否を分けるのは、主に資金と人員です。
バブルがはじけた場合、私が最も懸念するのは資金が枯渇することです。2008年の金融危機ではすぐに資金が止まり、若い日本法人を率いる人にとっては恐ろしい時期でした。コロナ禍は違いました。ソフトウェアには資金が流れ続けました。
既存企業の変革では、使える手段が違います。サブスクリプションの顧客基盤があり、それをAIへ移行させることが使命なら、仕事は自分にどんな手段があるかを理解し、それを使うことです。どの顧客から拡大するのか、どの新しい購買層に届く必要があるのか、本社の製品チームが日本向けに何を提供するのか、引き継ぐチームが新しい製品を売れるのか、といった点です。
自分に合うのはどちらか
リスクの許容度。 スタートアップは、数年のうちに会社が売却、統合、閉鎖される可能性を受け入れられる人に向いています。
ライフステージと家族。 お子さんが学校に通っている、住宅ローンがある、親の介護がある。そうした方は、株式の可能性よりも安定した収入を重視することが多いでしょう。
資産。 すでに大きなエグジットを経験した人は、賭けに出る余裕があります。そうでない人には、基本給が必要かもしれません。
実績。 若く勢いのあるリーダーにとっては、スタートアップから得るものが最も大きいことが多いです。他社なら何年も待つ肩書きと権限が手に入るからです。実績あるリーダーの経験は、変革の場でより大きな価値を持ちます。顧客基盤を大きな変化に導いた経験があるからです。
新しいものを追いかけすぎない
いつも一番新しい会社を追いかける必要はありません。すでにお金を払ってくれる顧客がいる既存事業を良くしていくことは、悩みの少ない、とても良いキャリアの道になり得ます。
両方と話してみてください
迷っているなら、両方の話を聞いてください。それぞれの会社に、資金の余裕、日本法人の権限、本社の支援について率直に質問し、その答えをご自身の強みと状況に照らして考えてください。両方と話して比べたうえで選んだ会社のほうが、長く活躍できるはずです。
ご自身の次の一歩について話したい方は、お気軽にご連絡ください。